Amazonプライム映画感想

Amazonプライム見放題映画の感想。ネタバレ有り。

未来世紀ブラジル/Brazil(1985イギリス)★★★★☆

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 一言でいうと「バカ映画」という部類になるだろう。

 ただし、B級映画というチープさはない。真剣に作って、お金もかけた「バカ映画」なのだ。
 前に見た『セブン』と同じく【結末が衝撃的な映画】に出てくることの多いこの映画だが、話の筋を追うのがバカらしくなるぐらい映像が面白い。
 原題は「Brazil」。南米のブラジルは「Brasil」である。なんでこんなややこしいタイトルなのかというと、テーマ曲に「Aquarela do Brasil/ブラジルの水彩画」が使われて

いるからだ。誰もが一度は聞いたことのあるであろう曲である。

 


Aquarela do Brasil - Gal Costa

 
 本編もそういうノリで、テリー・ギリアムが面白いという要素をブチこんだ結果、ストーリーがそっちのけになっている。
 さて、問題の結末シーンであるが、僕はすでにどういう内容かは知っていた。だから、衝撃は少なかったし、そもそも、あのままハッピーエンドだったら、行き場のない感情に襲われていたところだ。
 夢の女を見つけてからの主人公の行動は常軌を逸している。検問をぶち破るところなんて、ボニー&クライドよりも刹那的で無謀である。よくもあの女は、こんなイカれた主人公に惚れたものだ。
 夢の中でサムライと戦うシーンなど、マジメに考察してはいけない。これはバカ映画なのである。そうわりきると、とても面白い映画だ。
 
 さて、この映画の世界設定は、ジョージ・オーウェルの有名なSF「1984年」を下敷きにしている。情報管理が徹底された近未来都市を描いている、
 となると、最近の中国を思い浮かべる人が多いのではないか。中国では電子決済が9割以上。電子決済の長所は、その人の生活に関わる情報が全てわかることだ。それだけでなく、中国の人々は共産党によって国の貢献度ランクが分けられて、差別化されているという。日本のように「上級国民」だと騒ぐのは、法の下に平等である、という建前があるからこそ。中国はすでにそうではないのだ。
 しかし、そんなマジメな考察はこの映画では不要だ。「未来世紀ブラジル」は、1949年に書かれた「1984年」というSFの世界を、1984年に制作するという試みから始まった。だから、この映画の未来予知は現実から遠く隔たったもので、笑うしかない。情報で管理された社会が、すべては紙に印刷しないと、効力がないのだ。おそろしく非生産的で非効率だ。この映画の人々は、そんな世界で、せっせと生きている。
 むろん、そんな情報省に盾突く人々もいる。彼らはテロリストである。何を爆破するのかというと、インフラ設備である。そのインフラを通じて、情報省に情報を握られているからだ。しかし、その爆破の果てに何があるのか、テロリストは考えていない。テロという冒険を楽しんでいるだけみたいである。
 そして、主人公も夢の女と結ばれることを人生の第一に掲げているから、そんな世界を救うこともなければ、世界を変革することもない。夢の女とそっくりの現実の女の情報を知るために不正し、その女の関心を引くために、自分と他者の命を危険にさらけだし、挙句の果てにはトラックでの暴走である。めちゃくちゃだ。
 こうして、主人公は捕まって尋問を受ける。当然の報いである。さて、ここからハッピーエンドにするにはどうするか。それは漫画「ソードマスターヤマト」なみの無茶な展開しかない。
(知らない人は検索してどうぞ)
 
 そして、この映画は、いきなり「ソードマスターヤマト」になるのだ。それに爽快感を味わう人は少ないだろう。ご都合主義のオンパレードに、観ている我々は失笑するしかない。
 そのあとで、例のラストシーンである。流れるのは軽やかな「Aquarela do Brasil/ブラジルの水彩画」。
 おかげで、この曲を見るとこの映画のラストシーンを思い出さざるをえなくなった。一種の風評被害ではなかろうか。
 
 ということで、ストーリーが破綻しているわけではないが(実はそれっぽい話の筋はある)バカらしい展開が印象的でそれどころではないという、記憶に残る映画である。
 何しろ、Amazonプライムの紹介文が一行だけなのだ。
 

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夢と現実の交錯が織り成す狂気のギリアム・ワールド!
 
 なんのあらすじにもなっていないが、これこそが、この映画の本質である。
 マジメに考察することがバカバカしくなるほどの展開の数々。有名なラストシーンも含めて、エンターテイメントとしては一級品だ。
 オススメはしたいけど、映画の完成度としてはどうかと思うので、★は4つ。