バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985米国)★★★★★
Amazonプライムで見放題できる映画は、映画好きの人からすれば物足りないラインナップだが、ロクに映画を見てこなかった僕には宝の山である。
今回は「BTTF」の略称で通じるほどの有名映画、バック・トゥ・ザ・フューチャーを見た。
娯楽映画としての完成度はパーフェクトといえる。
誤って30年前にタイムトラベルした主人公の少年が「未来に戻る」ために、過去の街を駆け回るストーリー。映画では、主人公の両親を結ぶキューピットとしての主人公の役回りが中心になっているが、観ている者はドクこと「ブラウン博士」の魅力のトリコになるだろう。
2時間で数々の伏線を回収するばかりか、運命をも変えてしまうシナリオは素晴らしい。
ただ、「もっと前に見えておけばよかった」という後悔は少ない映画である。
主人公のマーティはスケボーが特技。特に、車に気づかれないようにけん引されるのが得意である。
おそらく、これを真似た少年は多く、事故も少なくなかったのではないか。
1980年代映画は、こういう無茶が少なくない。今より子供が多かったせいだろう。
そのマーティがアクシデントで、30年前の過去にタイムトラベルしてしまう。しかも、燃料は片道切符。
タイムマシンを発動させるには、1.21ジゴワットの電力が必要なのだが、30年前の技術では不可能だったからだ。
このジゴワットは「ギガワット」の誤りであるらしいのだが、その聞き慣れない単位ゆえの面白さがある。
で、このタイムマシンを復旧させるのは、それを発明したドク(ブラウン博士)に頼りっきりになる。
30年後にタイムマシンを完成させた、30年前のドクは、未来の自分の果たした偉業に驚きながらも、当時の未熟な技術で何とかそれを再現しようとする。
このドグの功績はサイドストーリーという形になっているが、だからこそ印象深いといえるだろう。
いっぽうのマーティは、無意識のうちに、自分の両親の出会いのきっかけをフイにしてしまう。
そして、当時の自分の父親がイジメられっ子で意気地なしなところを見せられる。
このままだと、自分の両親が結婚しない。それは、自分が生まれないことになってしまう。
演出として、写真を使っているのがわかりやすい。
主人公は三番目なので、まず、写真が兄から消えていくのだ。
あせる主人公は当時の自分の母親と父親を結びつかせようとがんばるのだが、逆に自分の母親に惚れられてしまうという始末。
このドタバタはSFという舞台装置ならではの面白さである。
さて、主人公が過去に行ったのは不慮の事故であり、彼にとっての現在である未来に戻ることが目的なのだが、そのほかにもどうしても変えたいことがあった。ドクの運命である。
ところが、ドクは「未来を知るのは危険なことだ」として耳を貸さない。
ここにドクの臆病さを観た人もいるかもしれないが、僕はドクの科学的良心を感じた。
周りの目は気にしないマッドサイエンティストのドクだが、その研究には誇りがあるのだ。
だからこそ、このドクの運命を変えられるかどうかという顛末に、注目したのだ。
はっきりいって、主人公が未来に戻ることができるというのは「お約束」のようなものである。
だから、ピンチのシーンが連続していても、観ている人の印象には残らない。
ところが、いっぽうのドクの運命はどうか。あくまでも、サイドストーリーだからこそ、救われるかどうかわからない。(あるいは、どう救われたかの見当が観客につかめない)
この「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という映画の成功は、本筋である主人公青年と過去の両親のロマンスをきちんと描いただけでなく、ドクという科学者を魅力的に描けたことにあるだろう。
さて、この映画は三部作。この第一弾は「現在と過去」だからこそ、違和感なく楽しめた。
しかし、Part2は未来に行ってしまう。
はたして、それで今作の「娯楽」の質は維持できたかどうか。
それに注目して、これからPart2を見たいと思う。
最後に、この映画には名言がある。
「何事も為せば成る/if you put your mind to it, you could accomplish anything.」
このセリフは非常に効果的に使われている。
まず、ドクがマーティに教え、マーティが若き日の自分の父親に教え、そして、現在に戻ったときに、父親が子であるマーティに教えるのである。
ただ、僕としては「まあ良い言葉だな」程度に終わってしまった。
前述したように、この「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は文句なしに娯楽映画の最高峰の一つだと思うが「早く見れば良かった」と後悔することはなかった。
例えば「ショーシャンクの空に」は後悔した作品である。人間の知性の忍耐の意味を、あれほどわかりやすく教えてくれる映画はない。
現状に不満を持っているのは誰もがそうだ。だが、その現状を乗り越えるためには、日々の積み重ねが欠かせない。しかし、そんな報われない努力をするのは辛い。でも「ショーシャンク」のアンディはそれを成し遂げたではないか。
あの映画は、多くの人を勇気づけた作品である。はたして「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にそのような力はあるのかどうか。
2時間映画にそこまで求めるのは酷であるかもしれない。人々は2時間で良い思いがしたいのだ。そういう意味では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」はパーフェクトな作品だといえるだろう。★は当然5つ。